雪が降っていた。
ただぼんやりと、空から落ちてくる真っ白な雪を眺めていた。
いつしか、外灯がともり、せわしなく目の前を行き来していた人の群はなくなっていた。
地面はほんのりと白くなっていて、その課程をただなんとなく見つめていた。
あ た た か さ を く だ さ い
「大佐!?」
その時初めて、焦点を目の前の人物に合わせた。
「 」
リザ、と言おうとしたのか、中尉、と呼ぼうとしたのか。
自分でも分からなかったけれど、とりあえず、声が出なかった。
「ど、うして」
「何をしているんですか、大佐。ほら、真っ白になって」
軍支給の黒いコート。
彼女の白い手が、コートに、そして髪の毛についている雪をはらう。
その時初めて、自分の身体に雪がつもっていたことに気がついた。
赤くなった彼女の手を見ていると、いたたまれなくなって、思わず彼女の手首をつかんでその動作をやめさせようとした。
そして思わず、驚く。彼女の温かさに。
目が合う。
一般的には、これを見つめ合うと言うのかもしれない。
「風邪、ひきますよ」
「ああ」
手を取って、彼女は言った。
「帰りましょう」
小さく首を傾げて、目の奥の方で笑いかける仕草がたまらなく好きだとぼんやりと思った。
気付けば彼女の部屋にいて、女性特有の甘い香りのする部屋のソファに座っていた。
その夜に身体を重ねたその人の唇はとてもあたたかかった。
私が、鋼の文章を書くとき、最も書きたくないものが、「死」である。
シリアスは元来好きだし、「死」というものを書くことにも読むことにも抵抗はないが、鋼に至っては、書くことについての抵抗を感じてしまう。
それは恐らく、ヒューズ中佐が死んでしまったからなのだと思う。
そして、それを他でもない私が受け入れることが出来ず、もしも私がだれかを殺してしまったとすれば必然的にヒューズ中佐の死を受け入れなければならなくなると思うので、書くことが出来ずにいる。
私は今、好んでロイアイの小説を書いているが、私の中でヒューズ中佐の死後、彼らの中は急速的に進展するのだと考えている。
実際に、ヒューズ中佐は亡くなっているし、それを私は理解してはいるのだけれど、それを私はまだ自分で文章に出来ずにいるのである。
2005/01/15...MIKO